コブシのブログ

つれづれ駄文

名誉ある撤退 〈2〉

「ガチャ!!」


 嫁が、勢いよく居間の扉を開けた。


 「アンタっ、何してん?」


 「お、おぉ・・・ど、ど、どしたん?」


そこには、捨てられた仔犬のような目をして、パンいちでソファーに正座し、テレビ画面には、NHKの囲碁の打ち手解説。


 言っておくが、季節は冬。


パンいちで、いる事自体が違和感アリアリ。


 震える手でグラスの飲み物を持ち、引きつった顔で取り繕っている私がいた。


 「アンタ、何見てん!シてたやろ!」


 「べ、べ、別に~・・・。」


 「アンタ、囲碁なんかせーへんやん!」


 下半身は、絶賛放出中・・・だった。


 嫁の事後談話よると・・・。


 居間の扉は真ん中に細長くすりガラスが入っている。


その扉のすりガラスに私が素早く動いている残像が見えていたらしい。


そして、扉を開けると、何事もなかったかのように取り繕って、震える手でグラスを持っていた私。


まぁ、結局、ちょんバレで、シてた事はバレたけれど、辛うじて最中は見つからなかった。


 何をどうしたのか、記憶はない。


 人間って、追い込まれたら何とかなっちゃうもんなんだなぁと感心した出来事だった。

名誉ある撤退〈1〉

「名誉ある撤退」


 私は自分で自分を慰める行為を、こう呼んでいる。


 何故なら、今は40代だから性欲も衰えて、そうでもないんだけれど、結婚したての30代の頃は、3日に1回してもいいくらいだった。


しかし、子供も1人いたし、私ばかりにもカマっていられない。


 嫁とは、初めて出会って、スタイル、顔、まさに自分の理想そのものだった。


あ、性格が少しキツイのはご愛敬だけれど・・・。


だから、この子と付き合って、飽きるんだったら他の女と付き合っても同じだと思えたから結婚した。


そのせいか、今までのように飽きるという事がなかった。


そのせいか、すぐシタくなる。


でも、むこうがヤりたくない時もあるわけで、そんな時は、「あームリムリムリ!」と、はっきり言われてしまう。


 「わかった、わかった!いいよ!」


なんて、言えるほど、器の大きな男じゃない私は、けんもほろろに断られると、やっぱりプライドも傷つくし、機嫌も悪くなる。


だから、私は自己回避の方法として、ヤりたくなった時の、数回に1回は自分でして、性欲を忘れるようにしていた。


でも、30過ぎて自分でするっていうのも、なかなかの惨めさがある。


そこで、私なりの落とし所として「名誉ある撤退」という風に呼んでいた。


しかし、家族で住んでいるという事は、まさか、いる時なんか、見つかるリスクを考えたら、怖くてできない。


だから、確実に一人っきりの時しかできない。


しかし、なかなか一人っきりになるチャンスがない。


だからこそ、一人っきりの時は大体ヌイていた。


そして、ネタはというと、エロ本やAVは、今まで見つかるとバカにされたり、蔑まれてきたからやめた。


パソコンもあったんだけれど、アナログ人間の私は、パソコンの機能に疎かったし、履歴を消し忘れたり、文字変換等で足がついてしまうんじゃないかと、やめていた。


しかし、私はとうとう絶好の方法を見つけてしまった。



その方法とは。


それは、息子が遊んでいたゲーム機Wiiの、ある機能。


インターネットに接続するボタンがあり、それを使えば、な、な、なんと、地デジのテレビ大画面にネットの画面が写し出される。


 本当に、この機能を考えた人に、お中元お歳暮を送りたいくらいだった。


これだと、電源抜いてしまえば、履歴を心配する必要もないというか、見る方法があるのかもしれないが、いくらなんでも、そこまではしないという、根拠のない自信があった。


それに気付いてからは、一人っきりの時間が、待ち遠しかったくらい充実していた。


そして、その日も、私は休みで、嫁は友人とランチに行くとの事だった。


 女同士というのは、飯じゃなく、それに付随するおしゃべりがランチの目的なのか、嫁がランチに行くと3時間は余裕で帰って来ない。


 「ゆ~っくり行って来ていいよ!」


あまりにも、テンション高くこう言ってしまうと、「アンタ!また、抜くんちゃうん?」って言われるのは、過去の経験から学習している私。


 「あ、そう。」


あえて私は興味無さそうにそっけなく、これからお世話になるテレビの大画面から目を反らさず返事した。


 「バタン!」


 昔の私なら、閉まった瞬間から、待ってましたとばかりに、ティッシュやポジショニングなどのセッティングなどに取りかかっていた。


しかし、ウチの嫁は、よく忘れ物を取りに戻ってくる事がある。


そんな時、さっきまで〈静〉だった私が、急に〈動〉になっている事に、↑のセリフを言われていた。


 10分・・・20分・・・30分。


 流石にもう戻ってくる事はないだろう。


これから2時間、いや、3時間は戻って来ないだろう。


 私はいつも、非日常を楽しもうと、ズボン、パンツ、下半身をすべて脱ぎ去り、フリーダムになる。


こんな姿、息子や嫁に見られたらと思うと、ゾッとする。


そのギリギリの緊張感が癖になっていた。


 下半身フリーダムの状態で、冷蔵庫から飲み物を出し、グラスに入れて準備をする。


 自分でも、(俺はエエ年こいて何をしてんねん!)と、自己嫌悪に陥りそうになる時がある。


そんな時の為に、〈名誉ある撤退〉の為なんだと思うと、何故か心が落ち着いた。


 諸々のセッティングも終わり、テレビの前の3人掛けのソファーにどっかりと腰を下ろし、いよいよ〈名誉ある撤退〉を始める。


いつものように、テレビ画面の入力を切り替え、Wiiのリモコンで検索窓に〈FC2〉と入力する。


 慣れた手つきで、無料会員のメアドとパスワードを打ち込む。


 私は、この〈FC2〉に出会ってから、エロ本、エロDVDなどを一切買わなくなった。


 本当に、この〈FC2〉を考えた人に、お中元、お歳暮を・・・もうエエか。


いつも私は、アダルトの視聴ランキングで、上位から見ていく。


 単純に1位の動画で抜く時もあれば、掘り出し物的な10数位の動画で抜く時もある。


だから、いくら1位の動画が良くても、掘り出し物があるかもしれないから、ゆっくり選ぶ。


なんせ、私には2、3時間のフリーダムが与えられているのだから。


そして、吟味し終わり、抜く動画が見つかり、いよいよ〈名誉ある撤退〉する時がやってきた。


 一連の行為の詳細は省きます。


そして、いよいよクライマックスに差し掛かった時。


 「ガチャガチャ!」


 玄関からイレギュラーな音。


(え、ウソ!)


もうクライマックス中の下半身。


(いやいやいや、ウソ!)


「ウィーーーン!ウィーーーン!」


 私の頭ん中で警告音が鳴り響く。


 今まで、ブツは見つかっても、流石に、行為中は見つかった事はない。


 玄関から居間まで、普通に歩いて、靴脱いだりなんだりして、10秒くらいだろうか?


しかし、嫁は私が家に居る時はカギを締めないで出ていく。


カギが締まっているという事は、アイツまた!的に早足で来ると考えて6秒くらいか。


 1、丸出しになっている下半身を何とかする


2、テレビのアダルト画面を何とかする


3、Wiiのリモコンを何とかする


4、放出中の下半身を何とかする


 これらを6秒の間にやらなければならない。


できるだろうか?


いや、やるしかない!


 私は完全にテンパっていた。


 Wiiリモコンが宙に舞っているのが視界に入った。


まさに、賽は投げられた!


<つづく>