何もしてないのに-5キロ <完>
「コブシちゃん、話があるんだけど・・・。」
毎晩の恒例行事となっていた一戦が終わった後、神妙な面持ちでMちゃんが話し始めた。
「実はね・・・もう、生理が来なきゃいけないのに、こないの・・・。」
「えっ・・・。」
なんか、ドラマとかで聞いたセリフが、自分に向けられている事が信じられなかった。
(という事は妊娠しているかもって事か・・・。)
Mちゃんの、「安全日だから大丈夫だよ。」という言葉を信じ、中出しを続けていた自分を激しく後悔した。
「それとね・・・。」
(え、それとね・・・って、他にも?)
「私のお父さん、ヤクザの組長なの。お父さんが決めた結婚相手がいて、それが嫌で家出してたの私。」
「エエっっーーーっ!!」
妊娠よりも、こっちの方が衝撃的だった。
「お父さんが決めた相手って、ヤ、ヤ、ヤクザ?」
「うん。」
(なんて日だっ!!)
ホント、バイキングの小峠じゃないけど、アクション付きで言いたい気分だった。
「Mちゃん・・・ちょ、ちょっと考えさせてくれる?」
私は即答できなかった。
そして、次の日、憔悴しきった私を残して、帰っていったMちゃん。
その日から、アイドル並みの可愛さだったMちゃんとの夢のような日々から一転。
食欲を微塵も感じない、地獄のような日々に突き落とされた私。
子供、ヤクザ、子供、ヤクザ・・・。
この2つの言葉がグルグル、私の頭ん中を駆け巡った。
途中、駆け巡り過ぎて、「子供ヤクザ」とかなって、普通だったら、「なんでやねん!」とか、突っ込みながら笑えるんだけど、今の私にそんな余裕はない。
Mちゃんが言っていた組の名前。
もしかしたら、実在しない組、ウソなんじゃないか?
もしかしたら、筒持たせ的な詐欺なんじゃないか?
私は僅かな望みにかけて
アウトロー情報に詳しいツレに聞いてみた。
「え、B組?あそこ、めっちゃ武闘派やで!」
私の僅かな望みは、木っ端微塵に打ち砕かれた。
子供を中絶・・・やっぱ、できないよな・・・でも、生むとなると・・・ヤクザにならなければならない・・・。
結局、3日間、考えに考えぬいて、私が出した結論。
子供を生んでもええし、ヤクザになる!
気が付くと、私は5キロ痩せていた。
私は試合が決まると、8キロ減量する。
そして、試合が終わり、減量から解放された数日の間に、普段の体重である63キロに戻る。
だから、Mちゃんと会って、私の体重は63キロ・・・いや、幸せ太りからもうちょっと増えてたかもしれない。
それが、Mちゃんが帰ってからの数日で、-5キロ。
試合に臨む過程の第2段階くらいまで体重が落ちていた。
そして、私は意を決してMちゃんに電話した。
「Mちゃん・・・子供できてたら、産んでエエし、俺・・・ヤクザに・・・」
「あ、その話ならもういいの!あれは、コブシちゃんを試したの!」
「へ・・・?」
「あの時、コブシちゃんが即答してくれてたら、私、コブシちゃんの事選んでた!だから、もういいの!じゃあ~ね~!」
「へ・・・・・・。」
私は、しばらく切れてしまった受話器を持ったまま、放心状態だった。
ヤクザにならなくて、良かったんだか、悪かったんだか・・・。
後日談・・・。
それから、1年後。
新しい彼女と同棲していた私。
夕方、一本の電話。
「コブシちゃん!久し振り!元気してた!」
Mちゃんだった。
「私ね、また、家出したの!でね、独り暮らしする為に、お金かせがなきゃならないから、手っ取り早く、水商売しようと思うの!でね、不安だからコブシちゃん一緒についてきて!」
私は、あの可愛いMちゃんと、また会えるという事と、もしかしたら・・・。
という下心満載で、今の彼女に黙って行こうと思った。
でも、できたとしても、絶対に中出しはしない。
そう固く心に決めていた。
そして、1年振りに会うMちゃん。
やっぱり、ぶっちぎりに可愛いかった。
また、Mちゃんと××できる!
そう考えるとニヤケが止まらなかった。
面接するスナックの店は、私の住んでいる駅の近くだった。
都合の良いことに、その近くにラブホテルが数件あった。
どこのホテルにしようかな~?なんて、のんきに考えていた私。
「じゃあ、行ってくるねーっ!」
明るくMちゃんは、店の中に入っていった。
小一時間、外で待っていた。
すると、Mちゃんが、手をダメダメという風に振りながら出てきた。
「ダメ!パパが手をまわしてる!」
聞くと、面接してくれた店長がMちゃんに言った。
「B組組長のお嬢さんですよね ?お家に帰られた方が・・・。」
と、言われたらしい。
ってか、どんだけのネットワーク力やねん!
ホンマ、つくづく妊娠させなくてよかったと思った。
「あ、そうや、Mちゃん、今夜、あの、その・・・どっか泊まってく?」
「え~、コブシちゃん、今、彼女いるんでしょ!ダ~メっ!」
「は~い・・・。」
あえなく撃沈。
って、自分は婚約者おって、私と遊んだのに、それはえ~んかいっ!
ホンマ、女って勝手。
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