コブシのブログ

つれづれ駄文

VS キチ〇イ  <1>

「コブシちゃん、助けてあげて!」



 今から20年ほど前、妻と付き合っていた頃の話。



 妻の親友のシングルマザーのHちゃん。



 女手ひとつで、2人の子供を頑張って育てていた。



しかし、ある男に悩んでいた。



その男は、Nというアパートの1階に住んでいるHちゃんの向かいにある一軒家に、母親と二人で住んでいた。



そして、何かにつけてクレームをつけてくるという。



たとえば、アパートの前の道路で、Hちゃんの子供が遊んでいると、「うるさい!」、荷物を下ろす為、車を止めていると、「公共の道路に止めるんじゃない!」等々。



 道路絡みで文句を言ってくるとの事だった。



 狭い道路なら言われても仕方ないけれど、車3台分くらいある広い道路。



しかも、クレームは昼夜を問わず、夜でもドアを叩いたり、台所の窓越しに言ってくる。



おそらく、仕事をしておらず、ずっと監視しえいるかのように、5分と経たず言いにくる。



いつか危害を加えられるんじゃないかと、恐怖を感じているとの事だった。



 私もHちゃんとは、子供を含めて食事に行ったり、遊びに行ったりしてよく知っていた。



 「そうか・・・そら怖いわな。よっしゃ!エエで!」



 私も当時はイケイケだったので、この手の話を聞くと血が騒いだ。



 時間は夜、10時。



 妻と二人、Hちゃんのアパートに行った。



 道路に車を止める。



 Hちゃんも子供たちも、不安そうな顔をしていた。



そんな姿を見て、その男に対する怒りが沸々と湧いてきた。



 部屋に入り、Hちゃんが出してくれたお茶に手を伸ばそうとしたその時。



 「Hさーーーーん!ダメですよーーー!車ーーー!ダメですよーーー!」



 部屋に入って、5分も経っていないんじゃないだろうか。



 私は飲み物に伸ばそうとしていた手を止め、玄関に行った。



 季節は夏。



 台所の窓は開いており、その窓の外側の鉄柵に顔を引っ付けて、その男は叫んでいた。



その様は、映画「シャイニング」のパッケージの男のようだった。



そら女子供だけの所に、こんなんされたらさぞかし怖かったことだろう。



 「何をギャーギャーわめいとんねんっ!」



その男は、私の顔を見ると表情が変わり、叫ぶのを止めて走って行った。



やはり、女子供だけだと思ってナメていたんだろう。



 私と妻は、向かいのNの家に向かった。



 「すいません、息子さんと話をさせてもらえないでしょうか?」



 私たちがNの家に行くと、母親が心配そうな顔をして出てきた。



 「は、はい・・・。」



 母親が奥に行った息子を呼びに行こうとした。



 「う、う、うるさーーーい!お、お、お前らと話すことなんかなーーーい!」



 奥からNが飛び出してきた。



その顔は、完全にいっちまったキチ○イの顔だった。



 「まぁ落ち着いて、話しようや。」



 私たちの間を強引に割って入り、外に出ようとしたNの腕を掴んで言った。



 「や、や、やめろーーー!離せーーー!」



 Nは激しく暴れ、私の手を振り払い逃げようとした。



 「えーからじっとせーって!」



 私とNは激しく揉み合った。



そこに妻も加わり、事態はぐちゃぐちゃになった。



 Nが激しく抵抗した際に、私の顔にNの手が当たり、私もエキサイトし、手こそ出さなかったけれど、ローキックを2発いれた。



ローが効いたのか、Nの体がくの字に折れ曲がる。



 Nは、私よりもタッパがあり、力も予想う以上に強かった。



 妻も昔の血が騒いだのか、Nの襟首を掴んで叫んでいた。



 事態は急速に展開していった。



 力ずくで私たちから逃れ、夜の住宅街を走って逃げていった。



ローが効いているようで、片足を引きずっていた。



 私たちもNの後を追った。



 「誰かーーー!殺されるーーー!」



いやいやいや、なんで殺さなあかんねん!と、笑いながら妻と顔を見合った。



でも、「殺されるーーー!」と叫んでいるのに、誰ひとり出てこない。



それはそれで怖いなと思った。



 「アイツ、どこまで行くんやろな?」



 妻と笑いながら話していた。



けれど、しばらくすると明かりがポツンと見えてきた。



 交番だった。



シャツがビリビリに破れ、口から血を流し、殺されると叫んでいる。



その状態で交番に駆け込まれる。



 相当面倒臭いことになるのは明らかだった。



 「ヤベーな・・・。」



 私と妻は顔を見合わせた。