VS キチ〇イ 〈2〉
私たちは恐る恐る交番に入った。
Nが口から泡を飛ばす勢いで熱心に自分の受けた被害を警官に訴えていた。
それを、呆れたような顔をして二人の警官は聞いていた。
「もう、常連でね~。」
一人の警官が、中に入った私たちにそう言った。
聞けば、近所の住民と揉めては交番に駆け込んでくるとのことだった。
私はホッとした。
普通、片足を引きずり、シャツも破れて、顔から血を流していたら現行犯でパクられてもおかしくない。
「あーーっ、こ、こ、こいつらですっ!」
Nは入ってきた私たちを見て、叫び声を上げた。
「まぁまぁ落ち着いて。」
手慣れた様子の警官がNをなだめて、しばらく話し合いをした。
途中で、笑いあってNと話ができるまでになった。
「じゃあ、双方とも落ち着いて話し合いをしなさい。」
残りの話はNの自宅でする事になった。
警官がNの自宅まで付き添ってくれた。
その間も、Nとは談笑しながら歩いていた。
「じゃあ、くれぐれも落ち着いて話し合いをして下さい。」
そう言って、警官は帰っていった。
「じゃあ、お茶でもいれますね。」
心配して帰りを待っていたNの母親が、お茶を出してくれた。
「ホンマ、おのれがギャーギャー騒がんかったら、こんな遅ならんかったんやで!」
私は、出されたお茶を飲みながら笑って言った。
事実、Nの家に行ってから、2時間ほど経過していた。
「お・の・れ?」
Nはそう言った後にみるみる表情が変わっていった。
顔は真っ赤になり、目が先ほど笑いあっていたのがウソのように、つり上がり、キチガイの目そのものになっていった。
「ちょーっと待って!ちょーっと待って!」
紅潮し、目がいってしまったNは立ち上がり、奥に走っていった。
「ちょっと、アンタ。」
妻からたしなめられたけど、言ってしまったものはしょうがない。
そして、Nが勢いよく戻ってきた。
「ぜ、ぜんぶ、お、お、俺が悪いんだろ!」
手には包丁を持ち、自分の首に刃先を当てていた。
私はNが、いつ包丁をこちらに向けても対応できるように立ち上がった。
「警察電話してっ!」
私が言った時は、すでに妻が電話していた。
「おいっ!Nっ!お前、話し合いする言うたんちゃうんかいっ!」
私も、刃物を持っている相手と対峙するのは初めてだったので、興奮していた。
「うーーーっ!うーーーっ!うーーーっ!」
Nの目は、今日マックスでイッちまっていた。
首に押し当てている包丁を持つ手が震えていた。
事態は急変するかと思った時。
「はい、はい、落ち着いて。ほら、N、包丁しまいなさい。」
この状況にそぐわない、落ち着いた口調で、警官が現れた。
まるで、いつもこうしているかのように、包丁を持っているNの側に行き、なだめるような口調で声をかけ、包丁を取り上げた。
「おい!これもうアカンやろ!銃刀法かなんかでパクれるやろ!」
「まあ、まあ、まあ、今日は帰んなさい。」
警官は私たちに帰るよう促した。
「いや、いや、いや、なんでパクらんの?俺ら刺されてたかもしれへんかったんやで!」
私が必死でそう言っても、警官は薄ら笑いを浮かべて、まあ、まあ、と繰り返すばかり。
私は、段々、警官に腹が立ってきた。
「何、これ、俺らが実際に刺されんと、こいつパクれんわけ?」
「まぁ、そういう事やな。」
まだ、その警官は薄ら笑いを浮かべていた。
「あーーアホらしっ!帰ろ、帰ろっ!」
「おいっ!Nっ!お前、次、ヤカラ言うてきたら、ヤるからなっ!」
そう言って私は、妻と帰ろうとして、Nの方を見て、ドスを効かせて言った。
この一件が効いたのか、NはHちゃんに何も言ってこなくなった。
しかし、今の世の中、こんな奴が野放しになっているんだから恐ろしい。
そして、実際に刺されないと捕まえようとしない警察。
本当に,今の日本は加害者に甘すぎる!
やられ損だと思う今日この頃。
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