新聞拡張員のSさん <完>
近所のファミレスに行った。
Sさんの年齢は58歳。
離婚してから、妻や子供に対する贖罪の念を忘れる事はなかったそうだ。
そのせいか、3歳の息子の事を、かわいがってくれた。
食事の後、ゲームセンターに寄った。
Sさんは、息子の為にUFOキャッチャーで、何百円も使い、ぬいぐるみを取ってくれた。
はたから見たら、どこにでもいる、おじいちゃんと孫に見えただろう。
それ以降も、治療院に来ては食事に行くというのが2度ほどあった。
血は繋がってないけど、家族みたいに私は思っていた。
そんな日々を重ねていたある日。。
1年くらいSさんが顔を見せなくなった。
新聞の契約更新も、別の人間が来た。
「最近、Sさん来ないね?」
妻とそんな話をしていた。
突然、Sさんが、ひょっこり店に来た。
「どうしたん?心配してたんやで!」
心なしかSさんの体が、小さく思えた。
「ワシ、来月手術するんや・・・。」
力ない声で私に言った。
「なんの手術?」
「まぁ・・・大した事ない、大丈夫、大丈夫。」
Sさんは、自分に言い聞かすように言っていた。
全然、大丈夫じゃないのは、Sさんの体つきを見れば歴然だった。
「何の手術?どこが悪いん?」
私の質問も、まともに答えようとしなかった。
「まぁ、また、手術終わったら顔出すよ。」
私の、お見舞いに行くという言葉にも、頑として首を縦に振らなかった。
私は、悔しいのと、心配なのがないまぜになり、もどかしかった。
あれから10数年。
Sさんとは会っていない。
今日も、いつもと変わらず、我が家の郵便受けには朝日新聞が届けられる。
Sさん生きてっかなぁ・・・
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