私の現役時代・・・

Мさんとの約束通り、20歳になる目前の１９歳で、東京後楽園ホールでデビュー。

 人気のある日本チャンピオンの前座。

 相手は、その日本チャンピオンが所属しているジムの選手。

アマチュアで数戦のキャリアのある相手。

だいたいメインの選手が所属するジムの興行では、そのジムに有利なマッチメイキングをするものだ。

だからこそ、実戦経験のない私に白羽の矢が立ったのだろう。

 勝つと思っていたのは、私とトレーナーとジムの仲間たちといってもいいくらいだった。

 負けるだろうと言われていた。

 私は負けたら自殺するくらい思い詰めていた。

 毎日ロードワークし、練習でもとことん自分を追い込んだ。

 会場は超満員、２０００人以上入っていた。

 気が付くと「殺す」という言葉を繰り返しつぶやき、自分を鼓舞していた。

まともな神経では、あの光輝くリングには立てなかった。

 覚えているのは、リングインして、トレーナーから、上を向いて深呼吸しろと言われて視界に入ったライトの眩しさ。

 突っ込んでいく私に、相手のアッパーが入り、顔が上を向いた時に視界に入ったライトの眩しさ。

 気が付くと右手を上げられていた。

 結果は１Ｒ１分１６秒、KO勝ち。

 ２戦目、新人王の予選。

デビュー戦とうってかわり、自分の力を過信し、まったくロードワークをせずに試合に挑んだ。

またこれがいけなかった。

またしてもKO勝ち。

おまけに、その日一番いい試合をした選手に贈られる賞をいただいた。

 「今日、どうだった？」

 賞をリング上で戴き、リングから降りたら、ボクシングマニアかと思われるオジサンが私に話しかけてきた。

 「後楽園ホール」

ボクシングだけでなく、格闘技の聖地といわれる。

だから、コアなファンはリングサイトに年間シートを買うくらいだ。

 「いや～今日はいまいちでした。次、頑張ります！」
 翌日、その私の言葉がスポーツ新聞に載った。

そのオジサンは記者だったのだ。

もう有頂天なんて生易しいもんじゃなかった。

 ２戦目も勝ち、新人王予選３戦目。

 相手はアマチュアでインターハイに数度出場のキャリア。

デビュー戦と同じ状況。

もうまったくロードワークしなくなっていた。

 当然のようにスタミナ切れ。

 判定までもつれた。

ダウンをとっていた私がなんとか勝ちをもぎとった。

 薄氷を踏むような勝利。

ここで気付けばよかったものの、またしても、やっぱ俺ってスゴいなぁという謎のプラス思考。

 走ってないのに、また、勝てた。

 俺ってスゴい！

そして、新人王準決勝戦。

 １Ｒで眼筋麻痺で相手が二人に。

 ２Ｒでは鼓膜が破れ、目尻から出血。

ズタボロの打ち合いの末、初めての敗北。

そして、歴戦のダメージで腰を痛めていたのもあり、半年間のブランク。

ブランク明け、世界タイトルマッチの前座。

 相手は無敗の地元のホープ。

 勝てば、一気にスターダムにのし上がれるビッグチャンス。