コブシのブログ

つれづれ駄文

酒癖 <2>

Mの酒癖。


 絡み方が、シャレにならないらしい。


 私が付き人をしていたKさんの父、先代の付き人をしていたOBのRさん(いかつい方)を本気で怒らせて、新年会の席で、どつかれたらしい。


 「アイツ、ホンマあかんで!」


その話を、Rさんから聞いていた。


 私も、最初はMの事が苦手で、話すのを避けていた。


 歴代の付き人たちの中でも、1人浮いている事が多々あった。


そんなMを見ていると、なんか、可哀想になってきて、最近は話すようになっていた。


ただ、サシで飲むのは初めてだった。


 Rさんの話を思い出し、殴らないようにしなければと、気を引き締めた。


お互い、一次会でそこそこ酒は飲んでいたので、ある程度は酔っていた。


 「お疲れっす!」


 二人グラスを鳴らして、サシ飲みスタート。


 仕事の話、お互い子持ちなので、子供の話などをとりとめもなくしていた。


(40分か・・・。)


そろそろ、話もつきてきた。


 別段、聞いていたような絡み酒でもなかった。


 元々、話もあわないので、そろそろ帰ろうと思っていた。


すると、私の携帯が鳴った。


 電話に出ると、弟分のようにかわいがっていたYだった。


 「コブシさん、今、どこおるんですか?」


 「お~、今、Mと飲んでんねん。」


 Yも、4代目の付き人で、この会に来ていた。


 「へ~、コブシさんがMさんと飲むなんて珍しいですね~。」


このYとは、ノリも合うし、何よりも、ある事がきっかけで、私のファン的な存在だった。


 私が言う事に、いつも声が出んくらい笑ってくれる。


 丁度、Mと飲むのもお腹一杯になってたところ。


 「3人で二軒目行くか!」


 思いがけず、3人で二軒目に行く事になった。


そして、そこでMの酒癖の悪さを知る事になった。


 野郎ばかりで飲むのもなんだから、女の子がいる店を探す事になった。


ホテルから出て、あてもなく3人で歩いていた。


 「あそこ、何かいっぱい店あるみたいですよ!」


 Yが指差したビル。


 外にあるネオン看板に、いくつも店の名前が書いてあった。


 「よっしゃっ!5階の店にするか!」


 「5」


 私の好きな数字。


こういう迷った時、私はいつもこんな決め方をする。


5階のフロアに着いた。


 楽しそうな声が、外にまで漏れている店があった。


 「ここにするか!」


 扉を開ける。


 思いの外、店の中は満席に近い状態。


 「いっぱいですか?」


 「え~と・・・あ、大丈夫です!」


 1つだけボックス席が空いていた。


 Mが向かいに座り、私とYが隣同士に座った。


 「いらっしゃいませ~!」


ホステスさんが二人。


 一人がMの隣、後の一人が、私とYの間に座った。


 私とYについたホステスさんは、チーママらしく30代後半。


 Mの隣には、胸が強調された服を着た20代後半の女性。


 「叶姉妹か!」


 Mが、その子の胸をガン見しながら声を上げた。


 服のせいもあるんだろうけど、確かに、パンパンに胸が張っていた。


 真面目そうなMの反応が、意外だった。


 私やYは、下ネタバンバン話すけど、Mが下ネタ話してるのは、見たことなかった。


 皆で乾杯し、私とYとチーママで、たわいもないバカ話をしていた。


 「も~スミマセ~ン!この人なんとかして下さ~い!」


 向かいのホステスが、笑いながら私たちに訴えかけた。


 見ると、Mが相変わらず、ホステスの胸をガン見しながら、触っていた。


 「お~い!ここはピンサロか!」


 私が笑いながら突っ込んで、我に帰るM。


 「だってコブシさん、見てくださいこの乳!」


 「乳言うな!牛か!」


 結局、Mは最後まで、外だったら捕まるレベルのセクハラを、ホステスさんにし続けていた。


あの真面目そうなMが・・・。


 人間というのは、わからないものだ。

酒癖 <1>

私の持論。


 「酒癖が悪い奴は、性根がそういう奴」


かなり偏見があるかもしれない。


 「理性のタガを取っ払う、なりたい自分になるための道具」


TVか本でか忘れたけれど、酒とは・・・と、どこかのお偉い先生が言っていた。


だよな~!と、変に納得した。


よく、女性にワイセツな行為をした容疑者が言うセリフ。


 「酒に酔っていて・・・」


いやいやいや、元からアンタの本能がそんなんやて!


お偉い先生のお墨付きにより、元々抱いていた持論が、更に強固なものになった。


という訳で私は、酒癖が悪い人間とは、極力関わらないようにしている。


 私自身は、酒癖は悪くない・・・と思う。


 普段から、話術で人を笑かすのが好きな私。


 酔うと更に、拍車がかかる。


しかし、私が一番危惧しているのは、記憶を無くす程飲んだ次の日。


 流石に最近は、そこまで飲むことはない。


けれど若い頃は、後先考えず無茶な飲み方をしていた。


 仕事先が、気合いであけんかい!みたいな所ばかりだったせいもある。


 翌日、恐る恐る、同席者に聞き込み、記憶の糸を手繰る調査。


ホッと胸を撫で下ろす。


この繰り返しだった若かりし頃。


 何が怖いって、暴力を振るう事、女性へのセクハラの二点。


これだけは絶対に避けたかった。


 私の後輩に、酒癖が悪いと評判のMという男がいる。


 私は昔、あるグループ会社の社長Kさんの付き人をしていた。


 私は初代の付き人で、Mは2番目の付き人だった。


 大学院出のインテリで、どちらかというと、私の苦手なタイプだった。


 付き人の引き継ぎの際も、屁理屈ばかりこねて、我慢するのに、苦労した記憶がある。


そのせいか、Mとプライベートで飲みに行った事は1度もない。


その後、よくMの酒癖の悪さを耳にしていた。


 年に数回、歴代の付き人10人が、Kさんを囲む会をする。


その会の時は、皆、ホテルに泊まって、遅くまで飲み明かす。


 二次会以降は、Kさんの体調が良ければ皆で行く。


でも、Kさんの仕事や体調によっては一次会でお開き。


 後は、気の会う者同士で個々に行く。


 昨年の会の時。


 Kさんの仕事の都合で、一次会でお開き。


 店を出て、それぞれ泊まるホテルにチェックインしに行く。


タクシーで相乗りして、ホテルまで行く。


その時は、Mと二人で相乗りして行った。


チェックインするのが、皆、バラバラなので、Mと二人っきりになった。


 「ホテルのバーで、一杯やるか?」


 誘わないのもやらしいので、Mを誘ってみた。


 「行きますか。」


 「考えてみたら、Mとサシで飲むん初めてやな?」


 「ホンマですね~。」


 一抹の不安を抱きつつ、Mと飲みに行く事になった。

新聞拡張員のSさん  <完>

近所のファミレスに行った。


 Sさんの年齢は58歳。


 離婚してから、妻や子供に対する贖罪の念を忘れる事はなかったそうだ。


そのせいか、3歳の息子の事を、かわいがってくれた。


 食事の後、ゲームセンターに寄った。


 Sさんは、息子の為にUFOキャッチャーで、何百円も使い、ぬいぐるみを取ってくれた。


はたから見たら、どこにでもいる、おじいちゃんと孫に見えただろう。


それ以降も、治療院に来ては食事に行くというのが2度ほどあった。


 血は繋がってないけど、家族みたいに私は思っていた。


そんな日々を重ねていたある日。。


 1年くらいSさんが顔を見せなくなった。


 新聞の契約更新も、別の人間が来た。


 「最近、Sさん来ないね?」


 妻とそんな話をしていた。


 突然、Sさんが、ひょっこり店に来た。


 「どうしたん?心配してたんやで!」


 心なしかSさんの体が、小さく思えた。


 「ワシ、来月手術するんや・・・。」


 力ない声で私に言った。


 「なんの手術?」


 「まぁ・・・大した事ない、大丈夫、大丈夫。」


 Sさんは、自分に言い聞かすように言っていた。


 全然、大丈夫じゃないのは、Sさんの体つきを見れば歴然だった。


 「何の手術?どこが悪いん?」


 私の質問も、まともに答えようとしなかった。


 「まぁ、また、手術終わったら顔出すよ。」


 私の、お見舞いに行くという言葉にも、頑として首を縦に振らなかった。


 私は、悔しいのと、心配なのがないまぜになり、もどかしかった。


あれから10数年。


 Sさんとは会っていない。


 今日も、いつもと変わらず、我が家の郵便受けには朝日新聞が届けられる。


 Sさん生きてっかなぁ・・・